私の仕事は風俗嬢だ。
この仕事を選んだ理由は以前も書いたことがあるけど、大好きなV系バンド『Schwarze wolf』を応援するため。
風俗は高時給だし、休みたいと思ったら気軽に長期休暇を取りやすい。
だから、全国ライブツアーがある時はガッツリ休んでレオさんたちを追いかけていたの。
今回も、バンドの無期限休止がショックで一週間引きこもっちゃったけど、そのことについて怒られることはなかった。
むしろみんな私のことを心配してくれて、アットホームな職場に恵まれて良かったと心から思う。
こんな自由に人生を謳歌できるなんて、本当に恵まれているなぁ。
「遥ちゃん、やっと戻ってきたぁ!」
待機室に行くと、小柄な女の子がタックルみたいな勢いで飛びついてきた。
私の働く風俗店でナンバーワンの人気を誇るマコちゃんだ。
何故か私にすごくなついてくれているんだけど、こんな可愛らしい見た目で私よりもずっと年上らしい……。
「心配かけちゃってごめんね、もう大丈夫だから」
「でも、しばらくバンドがお休みしちゃうって聞いたよ? 遥ちゃん大好きだったから、寂しいよね……」
まるで自分のことのように目に涙を溜めるマコちゃん。
私が男だったら今すぐ小脇に抱えてお持ち帰りしたいくらい可愛い。
「そうだ! 遥ちゃん、新しい趣味を見つけてみようよ!」
先ほどまで悲しそうな顔をしていたマコちゃんが、一変してパッと明るい表情でそう言った。彼女のことだから、次に出てくる言葉も想像できる。
「あたし、最近また新しいホストクラブを見つけてきたんだぁ。遥ちゃんも一緒に行ってみようよ~」
そう、マコちゃんは年齢不詳の見た目でありながら、ホスト通いを生きがいにしている。
あの現実離れしているキラキラした空間が大好きらしい。
いつも待機室で彼女が話すのは、シャンパンタワーだとか、ホストの外車に乗ったとか、そういった内容ばかりなの。
実年齢はともかく、こんな幼い見た目でホストに一気飲みさせているなんて、全然イメージができない。
「でも私、ホストとか興味ないしなぁ」
「それでもいいの! 一度行ってみたら楽しいかもしれないじゃーん!」
実は、これまでも何度かホストクラブに誘われたことがある。
だけど、私はお酒が強くないし、それに仕事じゃないのに男の人とお喋りしなきゃいけないのって肩がこっちゃいそう。
そんなわけで今まで一度も参加していなかった。
「バンドが休止している間だけの息抜きだと思ってさ、一緒に行こうよ。あたし、ずっと遥ちゃんとホスト行きたいと思ってたんだよぉ!」
もしかして、……これもマコちゃんなりの心配の仕方なんだろうか。
仕事を復帰したものの、私はやっぱり心のどこかに穴が空いているような気がしていた。
『Schwarze wolf』という人気V系バンドの存在は、私にとってそれだけ大きかったんだ。
そんなもやもやした気持ちを払拭できていない私の助けになりたいって、マコちゃんは思ってくれたのかな。
「わかったよ、じゃあ一度だけ、行ってみようかな」
「わぁい! 遥ちゃん大好き!!」
マコちゃんがホストに囲まれている様子を一度見てみるのも悪くない、とも思って、私は彼女の誘いに乗ることにした。
ほんの気まぐれだったはずなのに、これが大きな人生の転機になることを、この時の私はまだ知らない。
つづく。
コメント
すすむさん文章上手ですよね!
続きが読みたいです!(^^)